2023.1.19

第1回 数理モデルデザイン研究会 (Society for Math for Design)

科学分野で説明対象の仕組み(デザイン、メカニズム)を明らかにすることは、観察データから具体的な数理モデルを同定することと関係が深い。また、社会の仕組みや、人々の行動の分析の背後には、暗黙のもしくは明示的な「数理モデル」の仮定が想定され、このようなモデルに基づきデザインがなされている。つまり、「数理モデル」は、現代のデザインにおいて重要な因子である。そこで、「数理モデル」を様々な角度から理解する「数理モデルデザイン研究会」を立ち上げます。

特に、「感性・感情・認知・意識などのヒトの精神的内面構造を表現する数理モデルの定式化(具現化)と応用」は芸工において興味深い対象と考えます。

例えば、ターゲットとして、ヒトの様々な外部刺激(目、耳、肌等からの言語、視覚、肌触覚の外部信号)と、意識などの状態との関係モデルなどが考えられます。このようなモデルを、ニューラルネットワークの学習や、数理モデルの直接のデザインにより追及するアプローチは大変興味深いと考えます。

当研究会では、このような数理モデルのデザインに関する知見を深めたいと思います。

日時

2023年1月30日(月)18:20~19:30

場所

九州大学大橋キャンパス 5号館7階芸情ゼミ室
(対面またはオンラインで参加可能。演者は会場で参加します。)

プログラム

1.話題提供1:デザイナーが数学者としたいこと(仮)尾方義人 (15分)

2.話題提供2:芸工+機械学習(仮)丸山修 (15分)

3.ディスカッション・ブレーンストーミング:座長 丸山修

進行:丸山修

主催:デザイン基礎学研究センター、未来構想デザインコース

レビュー

当研究会の趣旨は、数理モデルのデザインを中心に位置づけ、「デザインのための数理モデル」と「現象理解のための数理モデルのデザイン」という座標軸を意識しつつ、研究と教育の視点から幅広く議論するサロン的な場を作ることにあります。

2023年1月30日月曜日に第1回の数理モデルデザイン研究会を開催しましたのでここに報告します。今回は、対面8名とオンライン11名の方々に参加して頂きました。

最初に主催組織の一つである未来構想デザインコースのコース長の尾方義人先生から開催趣旨を説明していただきました。そして、第1回目を次のプログラムで進めました。

  1. 尾方義人「デザイナーが数学者としたいこと」というタイトルでの話題提供
  2. 丸山修「芸工+機械学習」というタイトルで最近のAI研究の動向とデータ駆動研究のすゝめの話し
  3. ディスカッション・ブレーンストーミング(座長 丸山修)

尾方義人先生の「デザイナーが数学者としたいこと」では、数学や数理モデルの研究者向けに話題を提供していただきました。具体的には、次のトピックです。


(1)「行動量をどう分析すればいいか」
認知症当事者や障害者の行動を計測するところまではできるが、どう分析すれば形への根拠を導けるだろうかという数理モデリングに関する問いかけです。
(2)「心理量をどう聞けばいいのかどう分析すればいいのか」
あなたは女ですか男ですか0〜10でお応えください、というインスタレーション的アンケートをしたが、こういったことをどう分析していけば仕組みのデザインにつながるかという問いかけです。
(3)「数理的概念を使いたい」というテーマで、例えば、「非線形」「微分」「複素数」のような数理的概念を形や仕組みの説明や理解に使えると、発想も広がり、エンジニアや科学者と対話しやすいし、そのような教育ができればいいという提言でした。

丸山からの「芸工+機械学習」では、終わりそうで終わらない第3次AIブームという切り口で、画像データに対する畳み込みニューラルネットワーク、そして自然言語に対するChatGPT、AlphaCode、BioGPTという一連のツールの技術動向を概観し、「ヒトの特定ドメイン機能に絞ってモデルを学習させることで人間レベルに達する或いは超える学習手法」が確立されつつあるという話をさせて頂きました。そして、学習の成功の鍵が大量学習データの存在であり、Super data-driven の時代が来ているのかもしれないということに言及しました。もしそうであれば、大量データがない所に大量データを作れば、その分野はさらに活性化し新しいフェーズに入るのではないかと思われます。あえて言えば、生物種の全ゲノム配列の決定前と後くらいの雲泥の差があると思います。

そして次に、「視覚情報、言語情報と来て、深層学習の次の草刈り場はどこ」ということで、感情などヒトの内面機構に依存した応答反応が、芸工とも関連深く興味深いターゲットではないかという話題提供を行いました。このようなヒトのメンタル的な構造に依存した応答反応の「データ」と「学習モデル」が構築できれば、その応用として、感情をシミュレートする(介護などの)ロボットや、ゲーム内のAIキャラクター、作業者や何らかのサポートを必要とする人のメンタル支援を目的としたささやきアプリなど興味深い適用が考えられると思われます。

最後のセッションの「ディスカッション・ブレーンストーミング」では、多くの方々に、2つの話題に対する意見や質問をいろいろな角度から投げかけて頂きました。さらに、ご自分の研究における数理的手法や深層学習モデルの位置づけや思うところを披露して頂き、非常に多面的な内容になり、大変盛り上がったのではないかと思います。この場を借りてお礼を申し上げます。

次回は少々広い所で開催したいと思います。次回にご期待ください。

(丸山修)