2024.1.24

第6回 数理モデルデザイン研究会 (Society for Math for Design)

科学分野で説明対象の仕組み(デザイン、メカニズム)を明らかにすることは、観察データから具体的な数理モデルを同定することと関係が深い。また、社会の仕組みや、人々の行動の分析の背後には、暗黙のもしくは明示的な「数理モデル」の仮定が想定され、このようなモデルに基づきデザインがなされている。つまり、「数理モデル」は、現代のデザインにおいて重要な因子である。そこで、「数理モデル」を様々な角度から理解する「数理モデルデザイン研究会」を立ち上げます。

  • 講演者 田中 瑛先生

「育児のしやすい職場環境に向けた課題の析出——芸工内外の調査結果を踏まえて」

社会包摂デザイン・イニシアティブ(DIDI)では芸工内外の育児経験者を対象に調査を実施し、どのような職場環境の変革が求められるのかを析出した。本報告では、その調査結果を踏まえて、ライフ・ワークバランスの再設計に向けた課題を提示し、議論する。

日本の合計特殊出生率は1.26と長期の低下傾向にあり、その背景としてライフ・ワークバランスの問題が指摘される。特に「男は職場、女は家庭」という考え方が廃れ、夫婦共働き世帯が専業主婦世帯の2倍以上を占めると同時に、待機児童問題、不安定雇用の増大、所得や生活時間の減少など、育児と仕事を両立しながら生活を送るために必要な社会保障が上手く機能していないことが問題とされてきた。多くの教職員を擁する大学も例外ではなく、持続可能性という点で2つの問題があると考えられる。第1に、育児という営みに対して社会全体が対価を支払わず利用してきたことの問題である。生産性を優先し、育児を私的なこととして軽視する傾向は、出産の動機を損ね、結果的に生産人口の減少を招いている。第2に、意思決定層における多様な人々の包摂を阻むことで評価指標が画一的なものになるという問題である。例えば、育児負担の少ない研究者の方が、育児負担の大きい研究者よりも多くの研究成果を上げられるために業績主義は不公正なものとなっている。

以上の問題意識を踏まえて、実際の調査結果を報告する。まず、正規雇用がデフォルトとする働き方では育児に充当する時間を確保するのが極めて困難であるという事情が見られた。多くのパートタイム・非正規雇用の職員(主に女性)が出産や育児を理由に就労機会が損なわれていると感じており、他方で、正規雇用の職員(主に男性)は長時間労働や育休取得の難しさから育児への参加機会が損なわれていると感じている。そのため、職場の時間的・空間的な拘束を撤廃することを求める要望も多く見られ、変形労働時間制・裁量労働制やリモートワークの導入を通じた改善が示唆された。また、職場や社会が提供する育児支援については、事前手続きの煩雑さや必要から緊急時に利用できないとの声が聞かれた。最後に、誰もが無理なく仕事と育児を両立できる環境に必要な取り組みとして、事務業務の自動化(RPA:Robotic Process Automation)や、ユニバーサル・ベーシックインカムなどのラディカルな社会保障なども取り上げ、その可能性について議論する。

日時

2024年2月6日(火) 16:40~18:10

場所

シアタールーム(7号館1階)

主催

デザイン基礎学研究センター、未来構想デザインコース

レビュー

第6回数理モデルデザイン研究会の報告です。

2024年2月6日火曜日5限 16時40分~18時10分
場所:シアタールーム(7号館1階)
参加者:8名

今回は、社会包摂デザイン・イニシアティブ(DIDI)の田中瑛先生に「育児のしやすい職場環境に向けた課題の析出——芸工内外の調査結果を踏まえて」という題で話と話題提供をして頂きました。

ライフ・ワークバランスの再設計に向けた議論の土台とするために実施された芸工内外の育児経験者を対象としたアンケート調査の結果とその示唆するところについて紹介して頂きました。その中で「育児資本」という興味深い概念についても説明して頂きました。これに対して、会場からフランスの社会学者ブルデューが提唱した「文化資本」という個人的資産の概念の紹介もあり、興味深い議論となりました。また、数理関連の先生からは、因子分析の適用性などについての話がありました。さらに後半では、「時間が足りない」という今まさに我々が感じている感覚に対する社会的状況などに関する議論もあり大変興味深い会となりました。