エコロジカル・デザイン
Ecological Design

シム・ヴァンダーリンとスチュアート・コーワンは、1996年の著書『エコロジカル・デザイン』において初めてこの用語を使用し、さまざまな領域における人間の活動を自然の活動と統合し、環境への破壊的な影響を抑制することの重要性を強調している。

歴史的にみれば、エコロジーという活動領域は、ヘンリー・デイヴィッド・ソローの1854年の著書『ウォールデン、あるいは森の生活』にまでさかのぼることができる。その本においてソローは、森の中の自分の小屋によりながら、自己信頼を獲得し、自然環境と調和して生きることを主張する。19世紀から第二次世界大戦までは、ソローのような有名な作家、フランク・ロイド・ライトのような建築家、エルンスト・ヘッケルのような影響力のある科学者など、「ルーツ探し」と呼ばれる自然主義に基づいて、エコロジーは様々な解釈を受けてきた。

また第二次世界大戦から1996年までは、地球全体の視点からエコロジカル・デザインを保持し、地球資源の再分配に焦点を当てる「システムの探求」としての「総合的自然主義(Synthetic Naturalism)」の時代となった。エコロジストたちは、世界的な汚染、過剰な廃棄物、都市の爆発を科学で制御し自然のバランスに戻さなければ、地球は破滅に向かうと考えた。

三番目にやってきた大きな流れは、「暗い自然主義 Dark Naturalism」(2000-2017)の時代であり、ティモシー・モートンが2010年に出版した『エコロジカルな思想』(The Ecological Thought、未邦訳)において「ハイパーオブジェクトの探究」と呼んだものである。この用語は、地球温暖化、プラスティック汚染から資本主義の破壊性にいたるまでの問題を含んでいる。モートンは、海洋においてプラスティック廃棄物が島々を形成するように人工的な環境がよりいっそう発展するにつれて、ヘッケルが着想したエコロジカル・デザインの定義が変化することを見越している。かのプラスティックの島々はたんに環境の中に存在するのではなく、むしろ環境そのものなのである。

自然主義(19世紀から第二次世界大戦)総合的自然主義(第二次世界大戦から1996年)暗い自然主義(2000-2017)
重要人物重要人物重要人物
H.D. ソローS. ヴァンダーリンT. モートン
F.L. ライトB. フラーE. ストーマー
E. ヘッケルR. カーソンP. クレー
表 1: エコロジカル・デザインの時代と重要人物の歴史概観図

破壊的な影響をできるだけ小さくするために重要なのは、対立する当事者間のあいだで折衝をなし、目指すところと望ましい結果との齟齬を理解することであり、全体から見てより適切なしかたで問題を前に進めるために、デザイナーがなそうとしている目的と、それを実現するためのやり方を適合させることである。デザイナーには、デザインを実現する過程において様々な関係者を無視したり排除したりする悪しき傾向がある。エコロジカル・デザインの核心にはコミュニティがあり、他者とのやりとりがある。対話を通じて反対意見に敬意を払い、プロジェクトの短期的・長期的な影響を見極めようとする姿勢がそこにある。

一見すると破壊的な衝撃を抑えているように見えるが、現実にはそれだけいっそう破壊的なプロジェクトというものがある。たとえば、大都市から車で一時間の場所に最先端の環境技術を駆使した住宅を考えてみよう。この住宅は、建て込んでいない場所において、快適な居住空間と清潔で静穏と思われる周辺環境を所有者に提供するために、自動車を使わないとたどり着けない場所に位置しているのである。これに対して、買い物を済ませたり、病院や学校などの公共施設に通ったりするのに徒歩15分で済んでしまう別の家を考えてみよう。そこには高度な環境技術は使われていないが、とはいえエネルギー消費と騒音を減らすために断熱材がよい仕事をしており、実際に二酸化炭素排出量を減らし、所有者の運動量を増やして健康を向上させるので、はるかにエコロジカルなデザインを実現した家になっている、というものである。

エコロジカル・デザインは、そのプロジェクトがかかわるコミュニティや空間が、文化や文脈をもつことを考慮しなければならない。またそのデザインは、短期的にも長期的にも環境へのダメージを最小限に抑えるために柔軟かつ全体的であり、人間や人間以外の居住者を尊重することを求めるのである。

(ホール、マイケル・W)

Environmental risk management, Design Futures course.

References

  • Morton, T.(2010), The Ecological Thought. Cambridge, MA: Harvard University Press.
  • Ryn, S. V., & S. Cowan(1995), Ecological Design, Washington, D.C.: Island Press.(シム・ヴァンダーリン、スチュワート・コーワン(1999)『エコロジカル・デザイン』林昭男・渡和由訳、ビオシティ)
  • Waldon, H. D (1854), Walden, or, Life in the Woods. Boston: Ticknor & Fields.(ヘンリー・D. ソロー(2004)『ウォールデン 森の生活』今泉吉晴訳、小学館)